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巨大骸骨が目を引く 歌川国芳の代表作『相馬の古内裏』徹底解説

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歌川国芳の『相馬の古内裏』の基本情報

項目内容
作品名『相馬の古内裏』
製作者歌川国芳
制作年や時代1845年 – 1846年頃
所在地や所蔵先千葉市美術館(千葉県千葉市中央区)

歌川国芳の経歴・背景について

歌川国芳の略歴

  • 生誕地は江戸日本橋本銀町一丁目で生まれました。幼少期より絵を愛し、絵画の世界に魅了されました。
  • 早い頃から、北尾重政や北尾政美といった先人たちの作品を学び、模倣しました。この経験が彼の作品に影響を与えることとなります。
  • 初代歌川豊国の門下に入門したことで、浮世絵の技術や哲学を深く学びました。特に、歌川豊国歌川国直といった先輩芸術家から多くを学びました。
  • 西洋の技法陰影表現を取り入れることで、歌川国芳独自のスタイルを築き上げました。これにより、彼の作品は非常に独特のものとなりました。

歌川国芳の主要な作品

  • 『通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)』: 中国の奇譚『水滸伝』を題材として取り上げたものであり、歌川国芳の出世作とされます。本作品は詳細に一人の英雄が描写されています。その英雄の背後にある物語や伝説が生き生きと描かれております。
『水滸伝』とは?

『水滸伝』は、明代の中国で書かれた長編白話小説です。宋時代の中国を舞台に、108人の義賊たちが悪政に対抗して戦う物語で、彼らは最終的には朝廷により討伐されるものの、彼らの勇気や義気、忠義は高く評価されています。
  • 『本朝水滸伝豪傑八百人』: 『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』が好評であったため、今度は日本人の英雄が登場する本作品を出版した。このシリーズでは、多くの英雄たちが描かれており、それぞれの背景や活躍が細かく描写されています。

歌川国芳のスタイル

  • 物語的な要素: 歌川国芳は物語や伝説を愛し、それを基に独自の解釈やスタイルで作品を制作しています。その結果、彼の作品は非常に物語性豊かなものとなっています。
  • 西洋の技法の導入: 西洋の陰影表現や技法を学び、それを取り入れることで、斬新かつ独自の浮世絵を制作しています。

歌川国芳自身が影響を受けたもの

  • 初代歌川豊国: 豊国の門下生として、国芳は彼の技法やスタイルを深く学びました。その影響は国芳の作品にも見て取れます。
  • 歌川国直: 国直のもとで学びながら、彼の作品制作をサポートしました。この経験が、国芳の技術や哲学に影響を与えました。

歌川国芳や作品が影響を与えたもの

  • 後世の浮世絵師たち
    歌川国芳の独特のスタイルや技法は、後の浮世絵師たちに多大な影響を与えました。特に、彼のユニークな解釈や奇抜なデザインは多くの絵師たちに影響を与えたと言われています。

    <具体的な人物>
    • 月岡芳年:月岡芳年は、明治時代の浮世絵師で、歌川国芳の武者絵や妖怪を題材とした作品の影響を強く受けています。月岡芳年の「新形三十六怪撰」などのシリーズは、歌川国芳の作品のエッセンスを受け継ぎつつ、独自の解釈と色彩で描かれています。
    • 葛飾北斎: 葛飾北斎と歌川国芳は、多くのテーマや題材で競い合いました。葛飾国芳の妖怪や幽霊を題材とした作品は、葛飾北斎の「百物語」シリーズなどと並ぶものとして知られています。
  • 風刺画の分野: 歌川国芳は風刺画や戯画の分野でも非常に優れた作品を制作しました。彼の風刺的な表現やユーモアあふれるデザインは、後の風刺画家たちにも影響を与えました。

    <具体的な人物>
    • 楊洲周延:楊洲周延は明治時代の錦絵師であり、風刺画家としても知られています。彼の風刺画は、歌川国芳のユーモア溢れる作品やその風刺的な要素の影響を受けており、時事的なテーマをユニークな視点で描いています。
    • 小林清親: 小林清親は、日清・日露戦争をテーマにした風刺画で知られ、その作品には歌川国芳の風刺画の影響が見て取れます。歌川国芳の作品に触発されて、小林清親は日本の戦争を風刺的に、そして時にユーモラスに表現していました。

『相馬の古内裏』の詳細な解説

『相馬の古内裏』のモチーフと背景

本作品は、山東京伝の読本『善知安方忠義伝』に基づいた作品であり、その中の一エピソードを浮世絵として具現化しています。

読本『善知安方忠義伝』では、平将門の遺児、滝夜叉姫(五月姫)が中心的な役割を果たします。彼女は、筑波山に住む蝦蟇の精霊、肉芝仙から妖術を授かり、亡父の遺志を継ぐための計画を進めていました。そして、平将門がかつて建てた猿島郡相馬の「古内裏」を拠点とし、この場所を巣窟として徒党を組んで謀反を企てます。

この絵の中心的な出来事は、源頼信の臣である大宅太郎光圀が、滝夜叉姫の従者、荒井丸と戦闘を繰り広げている最中、滝夜叉姫が操る巨大な骸骨が御簾を破って出現する場面です。原作では、この戦いの場面に数百の骸骨が登場するものの、歌川国芳はそれを一体の巨大な骸骨として翻案し、独特の構図で表現しました。

このように、『相馬の古内裏』は山東京伝の『善知安方忠義伝』の中のエピソードを基に、歌川国芳の独自の解釈表現技法で描かれた作品となっています。

『相馬の古内裏』の絵の解説、技法や技術について

  • 絵の解説
    本作品は、一見すると混沌とした場面を色鮮やかに表現しています。
    本作品の左側に描かれた女性は、平将門の遺児である滝夜叉姫(五月姫)です。彼女の装束は繊細で華やかに描写されており、特に彼女の顔立ちや瞳の表情は魅力的で、彼女の持つ妖術の力やその美しさを強調しています。
    本作品の中央部には、御簾を破り現れた巨大な骸骨が目を引きます。この骸骨は、滝夜叉姫が操るもので、原作では数百の骸骨が戦う場面が一体の巨大な骸骨に翻案されて描かれています。骸骨の描写は細かく、その骨の一つ一つに至るまでのディテールが感じられます。
    本作品の右側には、源頼信の臣、大宅太郎光圀が勇敢に戦う姿が描かれています。彼の勇猛さや滝夜叉姫、そして骸骨との対峙する緊迫感が伝わってきます。
    背景には廃墟となった「相馬の古内裏」がぼんやりと描かれ、それに合わせて天空には暗雲が広がり、全体的に戦いの緊張感や不穏な雰囲気を盛り上げています。歌川国芳の特徴的な色彩感覚と独自の構図技法が、本作品を一層引き立てており、観る者をその世界に引き込んで放さない魅力を放っています。

  • 技法や技術:
    • 斬新な構図:歌川国芳はこの作品で大胆な構図を用いました。通常、三枚続の浮世絵は1片でも成立するように描かれるのが慣例ですが、歌川国芳は骸骨を画面いっぱいに大胆に描き込みました。このような独自の構図は国芳の特徴とも言えるもので、観る者の目を引き付けます。
    • 詳細な描写:作品の中で骸骨の描写は特に詳細です。これは西洋の解剖学に関する書物を参考にしたと考えられています。骸骨のそれぞれの骨、特に頭や背骨の部分は、非常に正確に描かれており、歌川国芳の高い技術が伺えます。

『相馬の古内裏』クローズアップ解説

滝夜叉姫の表情と装束

  • 技法や技術:
    • 繊細な筆使い:滝夜叉姫の装束の細やかな模様や彼女の緻密な表情の描写は、歌川国芳の繊細な筆使いを示しています。彼の技術は、細部までの描写においてもその鮮明さを失わないことが窺えます。
    • 色彩の選択:滝夜叉姫の装束や背景の色使いは、彼女の特別な地位や能力を強調するために選ばれていると感じられます。鮮やかな色合いとコントラストは、彼女の存在を一層際立たせています。
  • 注目ポイント:
    • 滝夜叉姫の瞳:彼女の瞳には、強力な魔法の力や決意が宿っているように見えます。この瞳は、作品全体の中でも特に引き込まれる部分となっており、国芳の描写の巧みさを感じることができます。
    • 装束のディテール:滝夜叉姫の装束には多くの細かい模様や装飾が施されています。これらのディテールは、彼女の高い地位や特別な能力を象徴している可能性があります。

巨大な骸骨と御簾

  • 技法や技術
    • 緻密な解剖学的描写: 歌川国芳は骸骨の描写において、非常に詳細で解剖学的にも正確な技法を用いています。このことから、彼は西洋の解剖学に関する書物を参考にしたと考えられています。
    • 御簾の質感: 御簾を破る骸骨の動きとその質感のコントラストは、骸骨の力強さと突如としての出現を強調しています。
  • 注目ポイント
    • 奇抜な構図: 原作では数百の骸骨が戦うシーンが、歌川国芳の手によって一体の巨大な骸骨として描かれています。これは、視覚的なインパクトを最大限に高めるための独自の解釈と言えるでしょう。
    • 骸骨の姿勢: 骸骨が御簾を破って現れるその姿勢は、自身の巨大さを持て余すかのようであり、不気味さの中にもコミカルな愛嬌が感じられます。
    • 御簾の破れ方: 御簾が破れる具体的な形状や質感から、骸骨の強烈な力や突然の出現を感じ取ることができます。

『相馬の古内裏』と他の作品との比較

同時代の浮世絵師 葛飾北斎の代表作『冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏』との比較

葛飾北斎『冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏』

二作品の特徴

  • 『相馬の古内裏』: この作品は滝夜叉姫と巨大な骸骨の戦いの場面を大胆な構図で描いています。歌川国芳の独特の技法で、妖術や超常的な要素が強調されています。
  • 『冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏』: 葛飾北斎のこの作品は、大きな波と小さな船を描いて、自然の力と人間の小ささを強調しています。

二作品の共通点

  • どちらの作品もその時代の日本の美術において画期的であり、革新的な技法を用いています。
  • 両作品ともに、人と自然や超自然的存在との関係をテーマにしています。
  • 両者ともに、独自の色彩技法を使用しており、鮮やかな色合いで視覚的なインパクトを持っています。

二作品の違い

  • テーマの違い: 『相馬の古内裏』は人間の戦いや超常的存在との関係に焦点を当てていますが、『冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏』は人と自然の関係を中心に描いています。
  • 構図の違い: 歌川国芳の作品は戦いの緊張感を表現するための動的な構図を使用していますが、葛飾北斎の作品は静寂と動きのコントラストを強調しています。
  • 表現方法の違い: 『相馬の古内裏』では超常的な要素が強調されているのに対し、『冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏』では自然の美しさと脅威が中心になっています。

最新の研究者による『相馬の古内裏』の仮説や考察

  • 西洋の影響についての考察
    「 骸骨の描写に関して、西洋の解剖学的な正確さを持つ表現がみられる」
    詳細: これは、歌川国芳が西洋の医学書や解剖図を参照して描写した可能性が高いという考察があります。これにより、歌川国芳が国際的な視野を持ち、異文化からの影響を取り入れた作品を創出したことが示唆されています。
  • 作品の背景に隠された政治的メッセージ
    「滝夜叉姫が父の遺志を継ぐ場面は、時代背景の政治的緊張を暗示している可能性がある 」
    詳細: 当時の江戸時代は、さまざまな政治的変動があり、それに伴う社会の緊張が高まっていた。この作品を通じて、国芳はそのような背景に触れ、暗に社会の状況を批判しているのではないかとの考察があります。
  • 国芳の独自の技法とその進化
    「『相馬の古内裏』は、歌川国芳の技法の進化や変遷を示す一例として取り上げられることが多い」
    詳細: この作品を通じて、歌川国芳の過去の作品と比較すると、彼の技法や表現がどのように変わってきたのか、またそれがどのような背景や影響から生まれたのかを考察することが可能です。

まとめ

『相馬の古内裏』は、歌川国芳の代表作として知られ、その背後にある物語や表現技法には深い意味が込められています。

この作品は、山東京伝の読本『善知安方忠義伝』を基にしており、滝夜叉姫や巨大な骸骨が登場するシーンが描かれています。

特に、歌川国芳の西洋解剖学への関心や時代背景を反映した隠れたメッセージなど、さまざまな要素が作品に織り込まれています。また、彼の技法や他の作品との比較からも、歌川国芳の画家としての進化や独自性が感じられる一作です。

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